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EUROMA発表体験記

バルセロナ市内から大学まで

EUROMAが開催された場所は、スペインのバルセロナにある、ESADE Barcelonaという世界トップクラスのビジネススクールです。大学自体は郊外にあるのですが、私はバルセロナの中心街に宿泊していたので、大学までは地下鉄に乗って移動しました。

バルセロナにはさまざまな種類の公共交通機関があり、同じ地下鉄でも複数の種類があったり、地下鉄の切符の種類もいろいろあったりします。日本には無い独特なシステムも多々あり、初めて利用する私にとっては少し難しさを感じました。

バルセロナの中心部である「カタルーニャ広場」から、地下鉄で揺られること20〜30分。Sant Cugat という場所に大学は位置します。そこまでいくための地下鉄ですが、「地下」とはいうものの、中心街を抜けてからは地上を走ってくれるため、バルセロナ郊外の雰囲気を車窓から眺めることができ、また、天気の良い日だったためとても気持ちの良いものでした。Sant Cugatはのどかな雰囲気の街並みで、観光客の活気で溢れている中心街とは異なり、落ち着いた住宅街、学生街、といった印象を受けました。駅から大学までは、バスなどを使っても行くことができるのですが、私は駅から15分ほど歩き、街並みを楽しみながら大学へと向かいました。そして、そういった街並みを抜けて大学の敷地に入ってみると、その広大な土地、自然豊かな大学の雰囲気に、きっとみなさんも驚かれることでしょう。

このESADE大学は、今回私が訪れたSant Cugatキャンパス以外にも2つキャンパスがあります。そして、このSant Cugatキャンパスには、主に学部生が拠点として生活しているそうなのですが、構内にあるESADE Creapolisと呼ばれるイノベーションセンターが、国内外の企業や起業家に開放されていることで、学部生はそういったイベント等にも参加することが可能だということを知りました。

最初大学に入った際に、「なぜ起業家向けのイベントが開催される日にたくさんの学生が集まっているのだろう」という疑問があったのですが、これを聞いて納得することができました。

ということで、ここからは、アイティ・マネジメント研究所の代表が今回の学会で発表した論文の内容について、経緯と概要を以下で紹介していきます。

<代表の言葉から>

私(代表:高木徹)は、4年ほど前からトヨタの組織文化に興味のあるメンバーで「組織マネジメント研究会」という会を、横浜国立大学大学院の横澤公道教授にアドバイザーとして参加して頂いて、月に一回というペースで取り組んできました。

この背景には、世界の有名企業の多くと、その他の企業も含め570万人以上の人が影響(LinkedInでLeanで検索するヒットする数)を受けた、トヨタのマネジメント(Lean)の根本原理を考察することがありました。なぜなら、Leanによって海外企業の品質(当たり前品質と魅力品質)が向上することで、日本の相対的な地位の低下が起きているのではないか?と、海外に行ったことで得た現場感覚から危機感を抱き、世界が影響を受けたトヨタ自動車のマネジメントを深く考察したいと思ったからです。

トヨタが強い原理はどこにあるのか?どんな理論が支えているのか?というモヤモヤとしているもの(トヨタの組織体質は暗黙知の塊)を理論化し、それを少しでも他の日本企業が参考にすれば日本の会社が変わるのではないかと考えました。

トヨタ自動車が強いのは、改善に裏打ちされたとてつもなく多くの経験知(実践知)を組織として保持しているからです。日本の他の会社にこの組織体質を横展開するためには、同じような方法、手法の改善プロセスを回していては、海外に追いつき、追い抜くことはできません。すでに海外では、2010年頃から本格的にLean化のスタートを切っていていることで、この日本は10年も周回遅れになっているため、そのギャップは埋めきれません。

私は、組織体質の基となる経験知(実践知)を別の形で転写し、持続的改善体質を形成するための理論が欲しかったのです。そのために、私は色々な大学の先生と会話をし、理論化を模索してきました。しかし、ここで障害となったのは、学者の方達が、あまりにもトヨタという会社を知っているようで知らないという事実でした。表面的なこと(生産システムなどの視点)ではよくご存知なのですが、組織を構成している「人」「人間性」「習慣」などの話になると、全く理解が追いついていなかったのです。

そこで、ある知人を通して横澤先生を知ることになるわけですが、横澤先生はトヨタの組織の分析・研究から、人に焦点を当てた深い部分の行動理論を研究されていることがわかり、Woven Work Designの卒業生の方達の協力もあったことで、「組織マネジメント研究会」の立ち上げに至ったという経緯があります。

例えば、トヨタもそうですが、自律的なチームがなぜ良いのか?ワークエンゲージメント的にも、経営的にも、なぜそれが良いのかを証明することはしていないと考察しています。なぜなら、そこに理論が見えなかったからです。そこで、横澤先生から自律的な行動と組織活性化の関係性を示した理論として、P.Fアドラーの論文の紹介があり、それを今回はベースにすることにしました。

なぜなら、その論文で証明されているものを活用した方が早く、そして、その理論にトヨタ流の考え方を入れた新たな仮説を立てることで、トヨタが仕事をしていく上でこだわっている、正味(しょうみ)作業、付随(付帯)作業、ムダという仕事の3要素との関係性を知りたかったからです。出来上がった理論だけ見ると、簡単そうに見えるし当たり前のように思えますが、仮説を経てるところまでの予備知識の勉強や理論の立て方などで半年、実際に参加者の企業でアンケートを取って分析してみるところまでに約1年ほどかかっています。

私もそうですが、横澤先生からは、産学との良い連携ができたことで、理論化や実際にデータを取って分析することが非常に早く回り、質の良い論文が早く出せた、という声を頂いています。

ここからは、今回の理論がどう素晴らしいのかをご説明します。

世の中の会社ではよく、「自律的な」という言葉が使われていますが、組織の最も高度な状態は「自律的な組織」と言われています。軍隊においても、海兵隊などにおいても、自律的に行動できるように訓練を受けているのを見てもそれは明らかです。

今回の論文では、この自律性と先ほどの仕事の3要素(正味・付帯(付随)・ムダ)との関係性に着目しました。世の中の会社の多くは、正味が30%程度、付帯(付随)が60%程度あるというデータが我々の調査で出ています。

正味というのはお客様から見て価値のある作業、付帯というのは直接的な価値はないがやらないといけない作業、それと何の価値もないコストだけのムダです。ある大手ITベンダーの組織(146名)からは、約60%に及ぶ貴重な時間を実は価値のない仕事(付帯)に費やしているということがわかりました。金額にすれば、年間数億円を価値のない仕事に費やし、自ら疲弊した状態になっているということなのです。これはもう、ムダと呼べるかもしれません。いわゆる、サンクコスト(埋没コスト)と言われるものです。